もっぱら加入者(自社従業員)等の利益のみを考慮していますか 

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~企業型確定拠出年金(企業型DC)事業主の責務~

 目 次

  

 厚生労働省の「確定拠出年金施行状況」によれば企業型DCの加入者数は約723万人、実施事業者数は約3.6万社に及んでいる。確定拠出年金法(DC法)は2001(平成13)年6月に制定、同年10月から施行されているから、約20年を経て公的年金を補完する私的年金の柱として広く定着してきたと言えよう。

 確定拠出年金(DC)制度における基本的な考え方は、
「加入者である個人が自己の責任において運用の指図を行い、その運用結果に基づいた給付を受ける制度(DC法第1条)」
である。これは同じ企業年金制度である確定給付企業年金(DB)制度の
「事業主が従業員と将来の給付の内容を約束し、従業員はその内容に基づいた給付を受けることができる制度(DB法第1条)」
と大きく異なっている。

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 すなわち、確定拠出年金(DC)制度では、加入者である従業員の運用商品選択方法により将来の給付額が大きく変わってしまうということである。そのため、DC制度を導入している事業主においては、従業員に自己責任の原則を求めることができるレベルで適切な運用商品を用意しており、なおかつ従業員に投資教育を適切に行っているかが問われることになる。

 

Ⅰ.企業による運用商品選択の見直し

ポイント

  • 運営管理機関は取扱う商品の情報について開示義務があり、厚生労働省の一覧サイトから各運営機関の開示するWebサイトを確認することができる。
  • 確定拠出年金を実施している事業主においては運営管理機関の開示する情報をチェックし、自社の選択した商品が高コストであるなど加入従業員にとって不利になっていないか、一定期間ごとの検討を要する。

(1) 運営管理機関の情報公開

 2018(平成30)年5月1日施行(2016(平成28)年6月公布)のDC法改正により、企業型DCの運営管理業務を外部に委託する事業主は少なくとも5年ごとに運営管理業務の実施に関する評価を行い、運営管理業務の委託について検討を加え、必要があると認めるときは、確定拠出年金運営管理機関の変更その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされた。(DC法第7条第4項)

 また、2019(令和元)年7月1日に確定拠出年金法施行規則の一部を改正する省令が施行され、各運営管理機関のWebサイトにおいて運用商品の一覧が公表されることになった。運用商品の一覧には販売手数料や信託報酬等も併せて表示するよう

「運用の公表のイメージ」(様式)で定められており、同年11月に厚生労働省は運営管理機関登録業者一覧表(2020(令和2)年4月17日現在221社)に各運営管理機関が情報を開示しているWebサイトへリンクを張るなど、運営管理機関に関する情報公開も充実されつつある。

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(2) 高コスト投資信託の弊害

 投資信託にかかる費用は以下の3つが挙げられる。

  1. 販売時にかかる販売手数料
  2. 保有時に差し引かれる信託報酬
  3. 売却時に必要な信託財産留保額

 1.の販売手数料は近年大半が手数料ゼロのノーロード・ファンドになってきていること、また3.の信託財産留保額とともに売買の際に1回だけ支払うものであることから積み立てた資産に対する影響力は小さい。
 しかし、2.の信託報酬は長期にわたり毎年必要なコストであるため、単年ベースでは小さな差であったとしても長期間の積立てに与える影響力は大きなものとなる。

 

 例えば収益率5%の投資信託で毎月3万円(年間36万円)を30年間積み立てた場合、年間の信託報酬が0.1%の投資信託と0.9%の投資信託では30年後にその運用の差は300万円以上も開いてしまう。従業員は事業主が決めた投資信託の中から運用する商品を選ばざるを得ないため、特に指数をベンチマークとするパッシブ型(指数連動型)の商品では運用成績がほとんど変わらないのに信託報酬の多少によって老後資金に大きな影響を及ぼしてしまうことも起こってしまう。

 

 事業主は運営管理機関から情報開示された一覧表と自社ラインナップを比較することで次のようなことが可能になる。

  1. 元本確保型商品の金利が優位か確認できる
  2. パッシブ型投資信託のコストの妥当性が確認できる
  3. 追加候補となる商品を確認できる

 

 このように、確定拠出年金を実施している事業主においては少なくとも運営管理業務の実施に関する評価を行う際には商品一覧より過去の運用実績のみならず手数料等の確認をし、特に信託報酬については現在採用している商品と同種の商品とを比較してみることをお勧めする。運営管理機関(非代表の場合は代表事業主)とは積極的に対話を行い、現状のラインナップにおける問題点の有無を確認しなければならない。多少手間がかかったとしても、明らかに不利である高コスト商品を従業員に提示するわけにはいかない。

  

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Ⅱ.投資教育は配慮義務から努力義務へ

ポイント

 確定拠出年金を実施している事業主においては、DC加入従業員に対して年齢、経済状況、加入後の経過年数などに即した投資教育を行う必要がある。

2018(平成30)年5月1日施行の確定拠出年金法の改正に伴い、配慮義務となっていた継続投資教育は努力義務に格上げされた。

 確定拠出年金制度は、事業主等が拠出した掛金を加入者個々人が投資信託、預貯金、保険商品等の運用商品を選択した上で運用し、その運用結果に基づく年金を老後に受け取る制度である。よって、老後までの間の運用方法が将来の給付を左右することとなり、個々の従業員による運用商品の選択は重要な要素となる。

 事業主は確定拠出年金を採用した以上、CD制度の内容について従業員にきちんと説明し、理解に努めることは重要な労働条件の一つとなる必須の条件である。確定拠出年金を採用しているにもかかわらず適切な投資教育を実施しないことは事業主による注意義務を果たしていないと指摘されかねない。

 投資教育の内容は幅広いため、事業主が教育を企画・実施していくためには加入者の年齢、経済状況、加入後の経過年数などに応じたきめ細かな研修が必要がある。例えば退職時期を意識したリスク管理を推奨するためには、老後までに時間がある若年層は比較的リスクが取りやすいこと、一方で老後を間近に控える高年層にはリスクを抑える必要があることといった投資の基本的な考え方を意識付けることになる。

 一般的な投資教育として具体的な研修内容は、

  1. 確定拠出年金制度等の具体的な内容
  2. 金融商品の仕組みと特徴
  3. 資産の運用の基礎知識
  4. 確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計

などが考えられる。

 ただし、事業主側の負担にも限界があるため、必ず行わなければならない「基本的知識」と応用的な「望ましい知識」とに教育項目を分類・整理をすることも適切な投資教育を実施するための方策の一つとなる。

  

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Ⅲ.まとめ

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 一般的に投資は「自己責任の原則」という考え方に基づいてなされる。すなわち、価格変動のある金融商品の取引による投資は投資者自身の判断と責任において行うべきで、仮に投資の結果損失が発生したとしてもそれは本人の責任によるものであるという考え方である。

 ただし、「自己責任の原則」には前提があり、投資者がその金融商品取引に関する情報を収集できる環境にあり、なおかつ金融商品販売業者が販売する金融商品についてリスクを十分に説明をし、投資者に理解させたうえで投資者自らがリスクを評価する能力を持って金融取引を行うことを要する。

 この考え方に基づけば、確定拠出年金(DC)制度においてはDC加入従業員の老後資金の重要性に鑑み、事業主は運営管理機関の示す品ぞろえの中から選ぶ商品や加入者への投資教育の重要性を認識した制度運営を行わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

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